残照を歩く

彼岸にもそれなりの日常風景があるらしい。

指標

 一国の経済状態を表す指標として株価の水準を用いる時には、株価はあくまでも指標であって経済状態それ自体ではないことに注意する必要があるのたが、このことはしばしば見失われているようだ(あるいは意図的に看過しているのかもしれないが)。全般的に景気が良くなって経済水準が上向きになれば、それに連れて結果的に株価の水準も上がるだろう、という因果的論理が、株価を経済全体の指標とすることの根拠になっているのだろう。仮にこの論理が妥当だとしても、それはあくまでも景気の変動から導かれる結果の一つを表示する指標として妥当であるに過ぎない。
 気温計に表れる数値は、その場の気温を視覚的・数値的に表示して、皆の客観的な共有認識とするための指標だが、気温が低いからといって温度計の針を指でぐいっと押し上げて「ほら、暖かくなっただろう」と言っても、その認識に賛同する者は誰もいないだろう。
 株価という指標に直接働きかけて、その結果株価の数値が上がればそれで景気全体が好転したと見なす発想は、気温計の針を指で操作することで気温そのものが変化したと見なすのと同じようなことではないだろうか。